この改正は、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者との不合理と認められる待遇の相違の解消を目的として同じ仕事内容、仕事量であれば同一の賃金を支払うよう求められます。
どのような待遇が不合理となるのか各賃金項目について検証していきます。
※内容は順次更新していきます。
- Q1 「同一労働同一賃金」について教えてください。
- Q2 不合理かどうかを判断する要素は何ですか?
- Q3 「基本給」(能力や経験に応じて支給するケース)
- Q4 「基本給」(業績や成果に応じて支給するケース)
- Q5 「基本給」(勤続年数に応じて支給するケース)
- Q6 「昇給」
- Q7 「賞与」
- Q8 「役職手当」
- Q9 「精皆勤手当」
- Q10 「通勤手当」
- Q11 「食事手当」
Q1 「同一労働同一賃金」について教えてください。
A1 同じ仕事であれば同じ賃金を支払うべきとして、不合理な待遇差を規制す
るものです。
「同一労働同一賃金」とは、同じ企業内で同じ仕事に従事する正社員(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)との間で不合理な待遇差を設けることを規制するものです。改正前の「パートタイム労働法」から「パートタイム・有期雇用労働法」に名称が変更になり、主な改正内容は以下の2点です。
不合理な待遇差の禁止
均等待遇については、従来から規定がありましたが、改正により、個々の待遇(基本給、役職手当等)ごとに待遇の性質・目的に照らして適切かどうかが判断されます。
いかなる待遇差が不合理であり、いかなる待遇差が不合理ではないのか、具体例はQ2以降をご参照ください。
労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
・事業主が非正規雇用労働者を雇用する際に待遇を説明する義務
・非正規雇用労働者が事業主に対し、正社員との待遇差の内容や理由等の説明を求
めることができ、その場合、事業主には説明義務が生じます。
・非正規雇用労働者から説明を求められたことを理由として解雇その他不利益な取り扱
いをしてはならないことが明記されています。
「コストコ」は、正社員を含めて全員時給制を採用しているといわれています。(管理職は年俸制)同じ仕事をするのであれば同じ時給を支払うということで、まさしく同一労働同一賃金を採用した賃金形態を採用しています。
静岡県の最低賃金を400円近く上回る時給1,250円からスタートし、1,000時間ごとに14円〜82円の時給アップ、残業代は1分単位で計算し、時給の1.35倍を支給という単純明快な賃金体系です。
このような賃金体系のメリットは次のように考えられます。
・非正規雇用労働者の収入増加と生活の安定
・子育て中の女性、定年後の高齢者など労働時間に制約がある方の雇用促進
・ライフプランに合わせた働き方の実現
・不合理な待遇を受けてきた優秀な若者の獲得
成果主義が浸透している欧米や西欧諸国では受け入れられやすいと思われますが、終身雇用制度の下、年齢や経験、勤続年数等により賃金を決定してきた我が国の賃金制度には馴染みにくいかもしれません。
欧米や西欧諸国では職種に応じて賃金が決まることが多く、勤める企業が変わっても職種が一緒であれば賃金は同じという制度が浸透しています。タイでも同様の傾向がみられ、イセキサイド・タイランドにおいても通訳担当者は○○バーツ、会計担当者は○○バーツというように職種によって賃金が決まる「職務給」が採用されています。
一方、我が国では賃金を決定する際、「職務給」ではなく、一企業に長く務めることを前提に様々な職務・職種を経験し、その能力に応じて賃金が決定する「職能給」を採用しているケースが多いと思います。この場合、なにをもって同一労働とするのか非常にあいまいで、個人個人の業務が同一とは言えず、業種によっては「同一労働同一賃金」の導入は非常に困難であることが予想されます。
非正規雇用労働者に正社員並みの対応を求められるということは、企業にとっては人件費が増えるため、次のような対応を検討する企業が現れることも想定されます。
・正社員の待遇を非正規雇用労働者並みに下げる
・非正規雇用労働者の雇用を控える
バブル崩壊後に生まれた世代にとって、新卒で採用された会社が一生面倒を見てくれるという期待は確実に薄れてきています。定年まで安泰という安心感があれば、初任給は低くても我慢できるでしょう。好景気を味わったことのない世代の、今後どうなるか分からないという不安を解消し、モチベーションアップを図る人事制度の構築が求められます。
Q2 不合理かどうかを判断する要素は何ですか?
A2 職務の内容、配置・異動の範囲、その他の事情で判断します。
(1)職務の内容以下の項目から、職務内容が同一か判断します。また、責任については「著しく異
ならない」場合は、責任の程度に差異はないものとみなされる場合がありますので注
意が必要です。
・業務に伴う責任、権限の範囲・程度
・ノルマ等の成果について求められる責任
・トラブルやクレーム発生時の対応
・残業の有無有無
(2)配置・異動の範囲
配置転換の有無、勤務地の異動があるか等から判断します。
(3)その他の事情
能力、意欲、経験、労使慣行、定年後再雇用、嘱託、説明義務の履行などから
判断します。
Q3 「基本給」が不合理となる場合(能力や経験に応じて支給するケース)
A3 正社員と同一の能力、経験を有する非正規雇用労働者には、能力や経験
に応じた部分につき、正社員と同一の基本給を支給しなければなりません。
正社員のこれまでの経験が、現在の業務にあまり関連性を持たない場合、正社員の方が多くの経験を有しているということをもって、正社員の基本給を高く支給することは問題となる場合があります。問題にならないケース
- ある能力を習得したか否かでその能力に応じた基本給を支給し、現在もその職務に 就いている場合
- 定期的に職務の内容及び勤務地の変更がある総合職の正社員に対し、管理職に
なるための一環として非正規雇用労働者と同一の業務に従事している場合 - 非正規雇用労働者のうち能力又は経験が一定の水準を満たした者を正社員に登用し、職務の内容や異動があることを理由に基本給を高く支給する場合
- 土日や祝日に勤務する場合に時間当たりの基本給に差を設ける場合
Q4 「基本給」が不合理となる場合(業績や成果に応じて支給するケース)
A4 正社員と同一の業績や成果を有する非正規雇用労働者には、業績や成果
に応じた部分につき、正社員と同一の基本給を支給しなければなりません。
基本給とは別に、業績連動の手当を支給している場合も同様です。問題にならないケース
- 生産効率や品質に対する目標値に対する責任を負っている正社員に対し、基本給を高く支給する場合(目標値が未達のとき、待遇上の不利益が課されている)
- 週40時間働く正社員が売上目標の100を達成した時に業績達成手当が支給されるという賃金形態のとき、週20時間働く労働者が50の売上目標を達成したため正社員の半分の業績達成手当を支給する場合
Q5 「基本給」が不合理となる場合(勤続年数に応じて支給するケース)
A5 正社員と同一の勤続年数である非正規雇用労働者には、勤続年数に応じ
た部分につき、正社員と同一の基本給を支給しなければなりません。
期間の定めのある労働契約を更新している有期雇用労働者に対し、労働契約の開始時から通算して勤続年数を評価せずに基本給を支給することは問題となります。Q6 「昇給」が不合理となる場合
A6 勤続により能力が向上した非正規雇用労働者には正社員と同一の昇給を
行わなければなりません。
正社員に対し、非正規雇用労働者よりも有利な基準で昇給しているとき、問題となる場合があります。Q7 「賞与」が不合理となる場合
A7 正社員と同一の貢献をした非正規雇用労働者には、貢献に応じた部分に
つき、正社員と同一の賞与を支給しなければなりません。
職務内容や業績への貢献度にかかわらず、正社員には賞与を支給しているが、非正規雇用労働者には支給していないとき、問題となる場合があります。問題にならないケース
- 貢献度に応じて非正規雇用労働者に賞与を支給する場合
- 生産効率や品質に対する目標値に対する責任を負っている正社員に対して、賞与を支給する場合(目標値が未達のとき、待遇上の不利益が課されている)
Q8 「役職手当」が不合理となる場合
A8 正社員と同一の役職に就く非正規雇用労働者には、正社員と同一の役職
手当を支給しなければなりません。
正社員と同一の役職名であって同一の内容の役職に就く非正規雇用労働者には、正社員と同一の役職手当を支給しないと問題となる場合があります。問題にならないケース
- 週40時間勤務の正社員と、週20時間勤務の非正規雇用労働者が同一の役職に就いているとき、就業時間に応じた役職手当を支給する場合
Q9 「精皆勤手当」が不合理となる場合
A9 正社員と業務内容が同じの非正規雇用労働者には、正社員と同一の精
皆勤手当を支給しなければなりません。
正社員に対し、非正規雇用労働者よりも精皆勤手当を高く支給しているとき、問題となる場合があります。問題にならないケース
- 正社員が欠勤した場合にはマイナス査定を行い、非正規雇用労働者の欠勤にはマイナス査定をしていない場合
Q10 「通勤手当」が不合理となる場合
A10 非正規雇用労働者にも正社員と同一の通勤手当を支給しなければなりま
せん。
正社員に対し、非正規雇用労働者よりも通勤手当を高く支給しているとき、問題となる場合があります。問題にならないケース
- 所定労働日数に応じた交通費を支給するとき、日割りの交通費に相当する額を支給する場合
Q11 「食事手当」が不合理となる場合
A11 非正規雇用労働者にも正社員と同一の通勤手当を支給しなければなり
ません。
正社員に対し、非正規雇用労働者よりも食事手当を高く支給しているとき、問題となる場合があります。問題にならないケース
- 昼食のための休憩時間がない非正規雇用労働者に食事手当を支給しない場合